コロッセオを訪れる観光客=2019年6月/EyesWideOpen/Getty Images
コンクリートは、基本的にセメントを混ぜ合わせて作った人工の石または岩石で、セメントは、一般に石灰石、水、細骨材(砂や細かく砕いた岩)、粗骨材(砂利や砕石)で作られた結合剤だ。
古代ローマ時代の文献には、セメントに消石灰(石灰に水を混ぜて熟成させたもの)が使用されていることが示唆されていた。そのため学者らは、ローマン・コンクリートはこの消石灰を主材料として作られていたと考えていた、とマシック氏は言う。
しかし、さらなる研究の結果、ローマン・コンクリートにライムクラストが発生した理由は、コンクリートを混ぜ合わせる際に、消石灰ではなく、または消石灰に加えて、生石灰(酸化カルシウムとも呼ばれ、非常に反応しやすく、危険性の高い、乾燥した石灰石)を使用したためだと研究者らは結論付けた。
またコンクリートのさらなる分析の結果、生石灰を使用することにより発生すると見られる超高温下で形成されたライムクラストと、「ホットミキシング(超高温下でコンクリートを製造する手法)」がコンクリートの耐久性を高める鍵であることが明らかになった。
マシック氏はプレスリリースの中で「ホットミキシングの利点は二つある」とし、次のように続けた。「第一に、コンクリート全体を高温に加熱すると、消石灰のみを使用した場合には起こりえない化学反応が可能になり、他の方法では形成されない高温関連化合物が生成される。第二に、この高温により、すべての反応が加速されるため、(コンクリートの)硬化時間が大幅に短縮され、はるかに迅速な建設が可能になる」
研究チームは、ローマン・コンクリートの明らかな自己修復能力の原因がライムクラストなのか否かを確かめるため、ある実験を行った。
彼らはコンクリートのサンプルを二つ用意した。一つは古代ローマの製法に従い、もう一つは現代の基準に従って作り、それらに意図的にひびを入れた。2週間後、古代ローマの製法で作ったコンクリートは水を通さなかったが、生石灰を使わずに作ったコンクリートの塊は水を通した。
この研究結果は、ライムクラストは水に触れると溶けて亀裂に流れ込み、再結晶して、風化によって生じた亀裂が広がる前に修復することを示唆している。研究者らは、このライムクラストの自己修復能力は、従来のコンクリートよりも長持ちし、それゆえ持続可能性の高い現代版コンクリートの製造への道を開く可能性があると指摘する。同研究によると、自己修復能力のあるコンクリートの使用は、最大で世界の温室効果ガス排出量の8%を占めるコンクリートの「カーボンフットプリント」の削減にもつながるという。
研究者たちは長年、ローマン・コンクリートがそれほど丈夫なのは、ナポリ湾沿いのポッツオーリからの火山灰が原因と考えていた。この種の火山灰は、建設に使用するために広大なローマ帝国の各地に輸送され、当時の建築家や歴史家の説明の中でもコンクリートの重要な材料と紹介されていた。
マシック氏は、(石灰と火山灰は)どちらも重要な成分だが、石灰はこれまで見過ごされていたと語る。
この研究は、米科学誌「サイエンス アドバンシス」上で発表された。
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